アッ・ティーン(アラビア語: التين, “The Fig, The Figtree”)は、コーランの95番目の章で、8節からなる。本章では、人間の霊的状態が説き明かされており、その章題は第一節にある語に由来している。
التين 【アラビア語】
朗読音声
無花果 (いちじく) アッ=ティーン【日本語訳】
慈悲あまねく、慈悲深いアッラーの御名において。
1 いちじくとオリーヴにかけて、 2 シナイ山にかけて、 3 やすらかなこの町 (マッカ) にかけて。 4 われらは人間を、もっとも美しい姿に創造した。 5 それから、もっとも低きへと引き下ろした。 6 信じて正しい行いをする者は別で、彼らには、尽きることのない報酬があるだろう。 7 この後になって、何があなたに宗教を嘘よばわりさせるのか。 8 アッラーは、裁く者のうちもっともすぐれた裁く者ではないか。
解説
☪︎ いちじくとオリーヴにかけて
イチジク(ティーン)とオリーブ(ザイトゥン)は、イエスの活動の場であったエルサレム近郊の2つの丘の名前である。”イチジク”と “オリーブ”は、これらの木が、卓越した土地、すなわち、地中海の東部に隣接する国々、特にパレスチナとシリアを象徴している。
クルアーンに登場するアブラハムの預言者たちのほとんどが、これらの土地で生活し、宣教していたことから、この2つの樹木は、ユダヤ最後の預言者であるイエスに至るまで、神の啓示を受けた預言者たちによって語られた教えの比喩と考えることができる。
“シナイ山”は、特にモーセの使徒性を強調している。なぜなら、ムハンマドの出現以前、そして出現に至るまで有効であった宗教的律法、そしてその本質においてイエスをも拘束する律法が、シナイ砂漠の山でモーセに啓示されたからである。シナイ山(Tur Sinin)は、神がモーセに啓示を与えた丘のこと。
「やすらかなこの町」(al-Baladu’l Amin)とは、最後の預言者ムハンマドが生まれ、神の御告げを受けた場所であるマッカを意味する。
クルアーンの説く世界観では、神は人間を粘土から造られたとある。この章では、それだけではなく、神が人間のために用いた型が ” 可能な限り最良のもの ” であったことを示唆している。粘土は、ジンが造られた火や、天使たちが造られた光よりも重く堅固だ。
神は人間を優れた能力を持つように創造された。人間に与えられたそれらの能力は、預言者たちを通して伝えられた真理を認識し、それに従って人生を切り開くことができるようにするためである。そうする者は、永遠に栄誉ある高い位置にたどり着くだろう。
神から授かった能力がありながら神の意志に従わない者は、今ある祝福さえも奪われ、逃げ場がなくなる。彼らの運命は全くの没落である。預言者の出現とその使命の成果は、この事が真実であることを証明している。
アッラーは、人間の肉体と精神のバランスを保って創造される。世俗的な事柄が多すぎて、神との霊的な結びつきが弱すぎると、人はバランスが崩れ、弱くなり、欲深くなり、感謝の念を抱かなくなる。アッラーへの崇拝と (許される範囲の) 世俗的な事柄のバランスが取れているとき、人は強くなり、最も良い状態になる。
THE FIG (at-Tin)【英語訳】
In the name of God the Gracious, the Merciful.
1 By the fig and the olive. 2 And Mount Sinai. 3 And this safe land. 4 We created man in the best design. 5 Then reduced him to the lowest of the low. 6 Except those who believe and do righteous deeds; for them is a reward without end. 7 So why do you still reject the religion? 8 Is God not the Wisest of the wise?
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