アル=ムッザンミル(アラビア語: المزمل, “包まれし者”, “束ねられた者”, “包まれた者”)は、クルアーン第73章であり、20節から成る。アル=ムッザンミルの名は、この章の冒頭で預言者ムハンマドが外套に身を包んで祈る姿に言及したことに由来する。多くの論者は、”包まれし者 “はムハンマドの呼び名であり、クルアーン全体を通して使われていると主張している。預言者は、最初に啓示を授かったとき、妻ハディージャの許へ帰ると、彼を覆い隠してくれるようにと頼んだ。
この章の冒頭で、神はムハンマドに重要な啓示を授けようと準備される。この啓示に備え、神は夜の礼拝の厳格な規制を緩める。そしてムハンマドは、ファラオの懲罰の物語に例えられるように、不信心者は地獄で懲罰を受けることになるので忍耐するよう指示される。
73. THE ENWRAPPED (al-Muzzammil)
المزمل【アラビア語】
衣を纏う者 (包まる者) アル=ムッザンミル 朗読音声
衣を纏う者 (包まる者) アル=ムッザンミル【日本語訳】
慈悲あまねく、慈悲深いアッラーの御名において。
1 (衣に) 包まる者よ、 2 (祈りのために) 夜に立て、わずかの時を除いて。 3 (夜の) 半分か、あるいはそれよりも短く、 4 あるいは、それよりも長く。そして整った調子でクルアーンを朗読しなさい。 5 われらはあなたに、重みのある御言葉を投げかけよう。 6 本当に、夜の始まりは (心と舌を) より強め、御言葉 (を明確に朗読する) にふさわしい。 7 昼のあなたは、長きにわたりやるべきことがある。 8 それゆえあなたの主の御名を想い起こし、全身全霊を傾けてこの御方に仕えなさい。 9 東と西の主たるこの御方の他に、いかなる神もない。尊厳をもって、彼らから離れなさい。 10 彼ら (真理を拒む者) の言うことによく耐えていなさい。尊厳をもって、彼らから離れなさい。 11 嘘よばわりする者については、われに委ねなさい。(現世の) 贅沢を享受する者たちを、しばらく猶予しておきなさい。 12 われらの手には、(彼らのための) 足枷も、獄火もある。 13 喉につかえる食べものも、痛烈な懲罰もある。 14 (これが彼らの分け前となる) その日、大地と山々は揺れ、山々は砕け、砂となって流れる。 15 われらはあなたがたに、あなたがたの証人となるようひとりの使徒を遣わした。かつてわれらが、フィルアウンにもひとりの使徒を遣わしたように。 16 しかしフィルアウンはその使徒に逆らったそこでわれらは、恐るべき捕え方をもって彼を捕えた。 17 それで、もし (真理を) 拒むなら、あなたがたは (恐怖のあまり) 子どもさえ白髪になるその日、どのように自分を守るのか。 18 (その日、) 天は割れるだろう。かの御方の約束はまさに果たされる。 19 本当に、これはひとつの戒め。それゆえ望む者には、主へと至る道をとらせなさい。 20 あなたの主は、あなた (ムハンマド) が夜のほとんど三分の二か、または半分、または三分の一、(祈りのために) 立っているのを知っている。あなたと共にいる、一群の者たちについてもまた。アッラーは、夜と昼と (の長さ) を定める。あなたがたにはそれを計ることができないのを知り、かの御方はあなたがたを憐れむ。それゆえクルアーンの (あなたがたそれぞれにとり) やさしいところを朗読しなさい。かの御方は、あなたがたの中に病気の者がいるのを知っている。他のある者は、アッラーの御恵みを探し求めて大地を旅するだろう。また他のある者は、アッラーの道のために戦うだろう。それゆえ (あなたがたそれぞれにとり) やさしいところを朗読しなさい。礼拝のつとめを守り、喜捨をし、アッラーに善良な貸付をしなさい。何であれ、あなたがたが自分自身のためにあらかじめ行った良いことを、あなたがたはアッラーの御許に見出すだろう。それはもっとも良く、もっとも大いなる報酬。アッラーの赦しを願いなさい。本当にアッラーはもっともよく赦し、もっとも慈悲深い。
衣を纏う者 (包まる者) アル=ムッザンミルの解説と解釈
☪︎ 整った調子でクルアーンを朗読しなさい
これは「内容の重要性に十分注意を払いながら暗唱する」という意味。このように暗唱するとき、クルアーンと暗唱する者との間に相互作用が生じる。クルアーンは神からの御言葉であり、一節ごとに心はこの御言葉に答え始める。
クルアーンの中で神の偉大さについて言及されている箇所では、その圧倒的な偉大さに、自分の存在自体も強く影響される。クルアーンの中で神の恩恵が言及される時、心は感謝で溢れ、クルアーンの中で神の裁きが言及される時、それを読んで震え上がり、クルアーンの中で何か命じられる時、その命令を実行することによって、主の従順な僕となるべきだという思いが強くなる。
☪︎ われらはあなたに、重みのある御言葉を投げかけよう
『重みのある言葉』とは、次の章にある『起き上がって警告を与えよ』(74:2)という警告の命令のこと。これは、来世の危難について人々に知らせることを意味する。間違いなく、これはこの世で最も困難な仕事だろう。
そのため伝道者は、たとえすべての人々から疎外されたとしても、純粋で無垢な真理に向き合わなければならない。そして最後の瞬間まで、人々から苦しめられても我慢しなければならない。忍耐と対立を避け、原則として一方的に従わなければならない。
☪︎ 夜の始まりは より強め、御言葉 にふさわしい
真理を受け入れる呼びかけは、とても難しい取り組みを始めることを意味する。そのような状況において、共感者であり支援者として見出す唯一の存在は、自分の主だけ。心の中で神を思い起こすだけでなく、夜の間も神の前に立つ。夜は安らぎの時間であり、静寂の中で神を見出すのだろう。
夜の静寂の中でこそ、全神経を集中して神に向かう絶好の機会を得ることができる。真理の伝道の道には困難がつきまとうが、これこそが伝道者が持つ唯一の武器となる。
相手に悩まされたとき、その相手を非難したり反論したりせず、ひたすら神に向かうのが真の伝道者の道というもの。最後の瞬間まで否定的な態度をとらない。
そして、そのように反応を超越して活動を続けることが、本当の意味で真理の伝道者となる本質的な条件なのである。
☪︎ 望む者には、主へと至る道をとらせなさい
預言者の出現は、真理と虚偽の相違をはっきりと理解させ、最終的に真理を選べるようにするためのものだった。以前、モーセとファラオの間でも、このような選択肢が示された。
そして、預言者ムハンマドとクライシュの間でも、同じような選択がなされた。この世で神の伝道者の前に素直に頭を下げない者は、来世で神の懲罰の前にひれ伏すことになる危険を冒しているのだ。
☪︎ アッラーはもっともよく赦し、もっとも慈悲深い
宗教における必須の義務は、人間の能力に合わせて定められている。しかし、これらの義務は最低限の必須事項でしかない。例えば、一日を通してそれぞれの時間に行われる5つの礼拝に加えて、夜中の礼拝を捧げるとか、定められた施しに加えて慈善を行うなど。
これは、その人がどれだけ多くの善行を行い、より大きな報いを受ける資格を得たかを見極めるための、その人の信心深さのテストとなる。
THE ENWRAPPED (al-Muzzammil)【英語訳】
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