アル・ジン(アラビア語:الجن、“The Jinn”)は、28節からなるクルアーンの第72章である。本章は第1節に現れる語にちなんでこう名づけられている。この章の主題はジン。その意味するところは「幽精」であり、天使と同様に、ジンは肉眼では見えない存在である。クルアーンは人類と同様に、ジンもその導きの対象としている。クルアーンでは、人間は大地から、ジンは煙のない火から創造されたと述べられている。預言者のジンとの邂逅は、ターイフ遠征から帰還する旅の途中で起きた出来事であった。
アル・ジンはメッカン・スーラであるが、ジュズ・タバーラカ・ラーディ(67章から77章まで)に含まれる他のどのスラーよりもずっと後に啓示されたというのが一般的な見解である。アブドゥッラー・ユスフ・アリは、アル・ジンが啓示されたのはムハンマドが現在のタイフ付近で伝道していた紀元前2年頃であることは「ほぼ確実」であると述べている。マウラーナ・ムハンマド・アリも紀元前2年頃という日付に同意しており、預言者のメッセージに対する反対運動が最高潮に達していた時期にこのスーラが啓示されたと述べている。
72. THE JINN (al-Jinn)
الجن【アラビア語】
幽精 アル=ジン 朗読音声
幽精 アル=ジン 【日本語訳】
慈悲あまねく、慈悲深いアッラーの御名において。
1 (ムハンマドよ、) 言いなさい。「私に啓示があった。ジンの群れが (クルアーンを) 聞いてこう言っている。”本当に、私たちは驚くべきクルアーンを聞いた。 2 これは正しい道へと導く。私たちはこれを信じよう。何ものかを私たちの主と同列に連ねることは決してしない。 3 私たちのいと高き栄光の主は、配偶も、子ももうけない。 4 つまり私たちの中にいる愚かな者が、アッラーについて途方も無いことを言っていた、ということ。 5 私たちは、人間でもジンでも、アッラーについて嘘をつくことは決してないと思っていた。 6しかし人間のうちある者は、ジンのうちある者の庇護を求めさえする。そのようなことは、かえって彼らの愚行を増やすだけに過ぎない。 7 そしてあなたがたが思っていたように、彼らも、アッラーが何ものかをよみがえらせることはないと思っていた。 8 私たちが天に触れてみると、そこは厳重な護衛たちと、燃え上がる流星で満ちていた。 9 私たちはそこに (隠れた) 座をとっては、(盗み聞きしようと) 耳をそばだてていたものだった。しかし聞き耳をたてる者がいても、今となっては、燃え上がる流星が待ち構えているのを目にするだけ。 10 地上の者たちにとり悪いことが意図されているのか、あるいは主が彼らにとり正しい道を意図しているのか、私たちにはわからない。 11 私たちの中には、行いの正しい者もあれば、そうではない者もあり、様々な異なる道筋にある。 12 しかし私たちは、地上においてアッラーを出し抜くこと、また逃げおおせることもできないことがようやくわかった。 13 私たちは、導きを聞いてすぐにそれを信じた。そして主を信じる者なら誰であれ、失うことも、荷を負うことも恐れない。 14 私たちの中には、(主に) 服従する者もあれば、踏み外す者もある。誰であれ (主に) 服従する者は、正しい道を探求する者、 15 しかし踏み外す者は、地獄の薪となるだろう”、と」。 16 もし彼らが、その道筋にまっすぐであり続けるなら、われらは彼らに、必ずゆたかに水を飲ませ、 17 それにより彼らを試みるだろう。しかし主を想い起こすことから背き去る者は、厳しい懲罰へと追いたてるだろう。 18 本当に礼拝堂とはアッラーのもの。それゆえアッラーと共に他の何ものにも祈ってはならない。 19 アッラーのしもべ (ムハンマド) が立って祈ると、彼ら (ジン) が大勢で取り巻き、ほとんど押しつぶさんばかりだった。 20 (ムハンマドよ、) 言いなさい。「私は、私の主のみに祈る。そして何ものもこの御方と同列に連ねない」。 21 言いなさい。「私は、あなたがたを害したり、正したりする力を持たない」。 22 言いなさい。「 (私が主に背けば、) アッラーに対し、私を守りきることは誰にもできない。またこの御方の他に、私には避難所を見つけることもできない。 23 (私は) ただアッラーからの (真理の) 預言をのべ伝えるだけ、アッラーとその使徒に逆らう者には地獄の業火があり、永遠にその中に住まうだろう」。 24 やがて彼らも、約束されていたものを (警告されていた通りに) 目の当たりにしたとき、どちらが助け手として弱いか、またどちらが数において劣っているかを知るだろう。 25 言いなさい。「あなたがたに約束されているものが近いのか、あるいは私の主が長い期間を設けたのか、私にはわからない」。 26 かの御方は目には見えないものを知り、その秘密を誰にも明かさない、 27 かの御方に認められた使徒の他には。そしてかの御方はそれぞれ (の使徒) の前にも後ろにも守衛をつけるが、 28 それは彼ら (使徒たち) が確かに主の預言を伝えたかどうかを知るため。かの御方は彼らを取り囲み、またありとあらゆることを数え上げている。
幽精 アル=ジン の解説と解釈
☪︎ ジンの群れが聞いてこう言っている
この世には、人間と天使に加えて、ジンとして知られる別の存在がいる。人間には見えないが、クルアーンには何ヶ所かで触れられている。
これらの節によれば、ジンの中にも正しい道を歩む者と誤った道を歩む者がいる。一般の人々を惑わす愚かな指導者がいるように、ジンの中にも愚かな指導者がいて、偽りの言葉で人々を欺いている。
天使たちに関する限り、彼らは試されることもなく、したがって自由意志もない。ただ神から与えられた命令に従っているだけ。
☪︎ 導きを聞いてすぐにそれを信じた
クルアーンを聞いたジンたちは、すぐにそれを受け入れただけでなく、クルアーンを広める活動も行った。このことは、真実の言葉が生きている人々の耳に届くと、第一に、その真理を素直に認めること、第二に、その教えを喜んで広めること、これらの二重の効果がいつでも生まれることを物語っている。
☪︎ ただアッラーからの 預言をのべ伝えるだけ
この世のシステム全体は、人間を試す目的で形成されている。それゆえ、ここで現実が明かされるのは、あくまでも神のメッセージを伝えるためだけである。
もし人間の試練がなかったら、そして隠されたベールが取り除かれていたら、天使からジンの中の正しい者まで、すべての者が神の神格を認め、全宇宙がそれを証明することを人々は見ただろう。
☪︎ アッラーとその使徒に逆らう者には地獄の業火が
真理の預言者は見かけは一般人である。それゆえ、彼の呼びかけに反応した人々は、彼に敵意を抱く。そして、彼への攻撃が、神そのものへの攻撃に等しいことを忘れている。神に対し攻撃して、誰が勝てるというのだろう?
THE JINN (al-Jinn)【英語訳】
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参考サイト:al-Jinn
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