アル=ムルク(アラビア語:الملك、「主権、王国」)は、コーランの第67章であり、30節から成る。この章では、いかなる個人も他者に自分の意志を押し付けることはできず、他者を導き、模範を示すことしかできない(67:26)ことが強調されている。
الملك【アラビア語】
大権 (威力)アル=ムルク 朗読音声
大権 (威力)アル=ムルク【日本語訳】
慈悲あまねく、慈悲深いアッラーの御名において。
1 王権をその手に握る御方に祝福あれ。ありとあらゆるものごとにおいて全能の御方、 2 死と生とを創造した御方。それはあなたがたのうち、誰が善良な行いをするのかを試みるため。威力ある御方、もっともよく赦す御方。 3 層を重ねて七つの天を創造した御方。あなた (ムハンマド) は、慈愛あまねく御方の創造の中に、何の矛盾も見つけることはできない。それゆえ、目を上げて再度よく見てみなさい。あなたに、何か亀裂でも見えるだろうか。 4 それから、目を上げて再度よく見てみなさい。あなたの視線ははね返され、くたびれて元に戻るだけ。 5 われらはもっとも低い天を (星々の) 燭で飾り、またそれらを、悪魔たちを撃つ流星の石つぶてとした。またわれらは、彼らのために、烈火の懲罰を用意してある。 6 彼らの主を拒む者には、地獄の懲罰がある。行き着く先の、何と悪いことか。 7 その中に投げ込まれるとき、彼らは、それが沸き上がって轟音を響かせるのを聞くだろう。 8 激怒のために張り裂けんばかり。(新たな) 群れが投げ込まれるたびに、その番をする者たちが彼らに尋ねる。「あなたがたのところには、警告者が来なかったのか」。 9 彼らは言う。「いいや、警告者がひとり来ていた。しかし私たちは嘘であるとし、”アッラーは何ひとつ下していない。あなたがた (預言者たち) はひどい過ちを犯している”と言った」。 10 彼らはこうも言う。「もし私たちが耳を傾け、考えることさえしていたなら、烈火の仲間にはならなかっただろうに」。 11 こうして彼らは、自分たちの罪を認める。しかし烈火の仲間は (赦しから) 遠ざけられている。 12 しかし、目には見えない主を恐れる者には赦しと大いなる報酬があるだろう。 13 あなたがたがその言葉を秘めようとも、あらわにしようとも。本当にかの御方は、胸の中に抱くものを知っている。 14 創造した御方が知らないはずがあるだろうか。細やかな御方。熟知する御方。 15 あなたがたのために、大地を扱いやすいものとした御方。その中にあるあらゆる道を (旅して) 歩み、この御方が糧としたものを食べなさい。そして復活はこの御方にある。 16 あなたがたは、天にあるあの方が大地を揺らすとき、あなたがたを沈めることはないと安心していられるのか。 17 それとも天にあるあの方が、あなたがたに向かって石の嵐を送り込むことはないと安心していられるのか。やがてあなたがたは、われの警告がどれほどであるかを知るだろう。 18 彼ら以前にも、すでに嘘であるとしていた者たちがいた。われらの拒絶はどれほどであったか。 19 彼らは見たことがないのか、その翼を広げたり、畳んだりしながら、彼らの頭上を飛ぶ鳥たちのことを。慈愛あまねく御方の他に、彼らを (宙に) 支えるものは何もない。本当にこの御方は、すべてのものごとを見ている。 20 慈愛あまねく御方をさし置いて、誰があなたがたの軍勢となり、あなたがたを助けるというのか。(真理を) 拒む者は、ただ欺瞞の中にいるに過ぎない。 21 もし、かの御方がその糧を差し控えたなら、誰があなたがたのために糧をもたらすというのか。いいや、それでも彼らは頑なに尊大さと反感をつのらせる。 22 うつむいてただ歩いているだけの (真理を拒む) 者の方が、前を向いてまっすぐな道を歩く (信仰する) 者よりも正しく導かれているというのか。 23 言いなさい。「あなたがたをあらしめ、またあなたがたに聞く耳と見る目を、また諸々を感知する心を持たせた御方。あなたがたのうち、感謝する者はわずかであるが」。 24 言いなさい。「あなたがたを地上に増やした御方。そしてあなたがたは、御方へと集められる」。 25 彼らは言う。「もしあなたがたが真実を語っているのなら、その約束はいつ果たされるのか」。 26 言いなさい。「その知識は、ただアッラーの御許にのみある。私は、(警告を) 明らかにするひとりの警告者であるに過ぎない」。 27 しかしそれを間近に見ると、(真理を) 拒む者たちの顔は苦悶のために歪むだろう。 そして告げられるだろう。「これこそ、あなたがたが呼び求めていたもの」。 28 (ムハンマドよ) 言いなさい。「あなたがたは考えてもみたのか。たとえアッラーが私や私と共にいる者を滅ぼそうと、あるいは慈悲をかけようと、それで誰が (真理を) 拒む者を、痛烈な懲罰から救うというのか」。 29 言いなさい。「慈愛あまねく御方。私たちはこの御方を信じ、またこの御方にすべてを委ねる。やがてあなたがたも知るだろう、明らかな誤りの中にいるのは誰であるかを」。 30 言いなさい。「あなたがたは考えてもみたのか。もしあなたがたの水が、すべて (地中に) 沈んでしまったなら、あなたがたのために水を湧き出させるのは誰であるかを」。
大権 (威力)アル=ムルク の解説と解釈
☪︎ 死と生とを創造した
『生』とは、無目的な現象ではない。また『死』によって、すべてが終わるのでもない。現世における「生」とは、むしろ「生に似せた状態」であり、それは来世における「生の真実の状態」へと続いている。現世は、人間が試されるために設けられた一過性の場所に過ぎない。
現世を考察すると、ある矛盾が浮かび上がってくる。全宇宙は(人間を除いて)極めて完璧に、最もよく組織化された形で動いている。どこにも欠陥はない。ところが、人間の生活には多くの欠陥がある。これは人間の創造の本質が異なるからだ。この世に生きる人間は、試される状況に置かれている。試練というものは本質的に行動の自由が問われる。この行動の自由が、世界に乱れや不均衡を生み出すきっかけを人間に与えている。
人間界に横行する過ちは、人間の自由の代償である。もしそのような状況が存在しなければ、罪を犯す機会があったにもかかわらず罪を犯さず、傲慢になる力があったにもかかわらず傲慢を避けた立派な人々に、どうして神の祝福が与えられるだろうか?
☪︎ 行き着く先の、何と悪いことか
クルアーンの様々な箇所で、地獄図が描かれている。この地獄は今日、人間が垣間見ることはできないが、宇宙の持つ意義を通して間接的に知ることができ、想像することができる。もし来世において、悪人たちの清算が行われないとしたら、宇宙の全ての存在が不可解になるだろう。
現世では、来世が見えないという罰は、まさに神の計画に沿ったものである。神の偉大さを確信し、実際に神を見ることなくして神に従う者を見極めるのが神意である。そして、来世ですべての人を待ち受けている運命が、誰の目にも触れないようにしないと、人間の評価を正しく行うことはできない。
☪︎ 創造した御方が知らないはずがあるだろうか
人間の知識は不完全であるが、神の知識は完全である。神は自らの創造したものについては、確実に知悉している。
☪︎ あなたがたのために、大地を扱いやすいものとした
地球上のすべてのものはとてもバランスよく調和している。このバランスが人類にとって地球を住みやすいものにしてくれている。このバランスに少しでも乱れが生じれば、人間の生命は破壊されてしまう。
私たちは、与えられたこのバランスの取れた世界に感謝し、世界の均衡が崩れた結果、生じるかもしれない破壊的な状況に対して、神の恵み深い助けを求めるべきである。
鳥が空を飛び、土から人間の糧が生まれる。こうした出来事は最も素晴らしいものだ。そのような出来事に真剣に思いを馳せるなら、人は神の実在に心を奪われることだろう。ところが、人間はとても忘れっぽく、身の回りに見える自然現象が、神への服従を教訓とすべき世界で、傲慢にふけっている。
地上にあるものは、すべて人間の目的のために、人間の益となるよう与えられている。そして地上にあるものは、すべて、人間に従順である。この節は人間に、とりわけムスリムに対して進歩するよう励ましている。
☪︎ 天にあるあの方が大地を揺らすとき
全宇宙と、その中に起こる出来事のすべてを取り決め、天使たちを従えてそれらを采配するのは神である。神の許可なくしては、世界には何ひとつ起こらない。
☪︎ うつむいてただ歩いているだけの者
人間には聞く力、見る力、考える力が与えられている。聞くものは何でも従い、見るものは何でもそのまま受け入れ、心に浮かぶものは何でも批判することなく心に留めておくような体質の人もいる。このようなタイプの人間は、頭を下げて決まった道を進む動物のようなものだ。
☪︎ 前を向いてまっすぐな道を歩く者
全く別のタイプの人は、耳にしたものは何でも調べ、目にしたものは何でもより正確に理解しようとし、自分の殻を破って真理を見極めようとする人だ。聴覚、観察力、感受性という資質は、人間が真理を知り、見逃したり、無視したり、気づかなかったりしないために与えられている。
☪︎ 明らかな誤りの中にいるのは誰
相手が道理で納得しないとき、宣教師は固い信念の言葉を繰り返し、そうして内なる自己を目覚めさせる。たとえわずかな感受性があるだけで、このような言葉を聞かされると、その人は自らを改めようとする衝動に駆られる。しかし、意識が完全に鈍化している者は、どのような手段を用いても目覚めさせることはできない。
SOVEREIGNTY (al-Mulk)【英語訳】
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