アル=ワーキア(アラビア語:الواقعة、「必然」または「出来事」)は、コーランの56番目のスーラである。イスラム教徒は、ムハンマドがメディナに移住するヒジュラ(622年)の7年前、すなわちメッカで啓示されたと信じている。主にイスラームにおける死後の世界と、そこで人々が直面するさまざまな運命について述べている。
الواقعة【アラビア語】
出来事 アル=ワーキア 朗読音声
出来事 アル=ワーキア【日本語訳】
慈悲あまねく、慈悲深いアッラーの御名において。
1 出来事が起こるとき、 2 それが起こるのを、誰も嘘であるとはしない。 3 あるものは低められ、またあるものは高められる。 4 大地が震えに震え、 5 山々は粉々に崩れ落ち、 6 散らばる塵となり、 7 あなたがたが、三つの群れに分かたれるとき、 8 右側の仲間。右側の仲間とは何か。 9 左側の仲間。左側の仲間とは何か。 10 先頭にある者は、(来世においても) 先頭をゆく。 11 これらの者は、(主の) そば近くに召される者たち、 12 至福の楽園の中に、 13 多くは大昔の者たちで、 14 後世の者は少ない。 15 錦織の座の上に、 16 くつろいで互いに向かい合う。 17 永遠の少年たちが彼らのあいだを巡り回る、 18 うつわや水差し、泉から汲んだ杯を捧げ持って。 19 それで彼らが頭痛をおぼえることも、泥酔することもない。 20 彼らが選んだとおりの果実、 21 彼らが望んだとおりの鳥の肉、 22 すばらしい瞳の美しいもの、 23 まるで隠された真珠のよう、 24 彼らの行ってきたことへの報いというもの。 25 そこでは無意味な話や罪な話を耳にすることもない。 26 ただ「平安あれ、平安あれ」の挨拶だけ。 27 右側の仲間。右側の仲間とは何か。 28 棘のないスィドルの樹、 29 果実が重なってみのるタルフの樹。 30 伸べ広げられる木陰、 31 湧いてあふれる水の流れ、 32 おびただしい果実。 33 尽きることもなく、禁じられることもない。 34 高く掲げられた寝椅子。 35 本当にわれらは、これらを新たに生じさせ、 36 また手入らずの者とした、 37 よく似合いの、愛情深い伴侶として、 38 右側の仲間のために。 39 多くは大昔の者たちで、 40 後世の者も多い。 41 左側の仲間。左側の仲間とは何か。 42 焼き焦がす風と、沸騰する水の中に、 43 黒煙の陰に。 44 涼しくもなく、心地よくもない。 45 以前の彼らは、本当にに贅の限りを尽くしてきた。 46 大それた過ちばかりを犯し続けてきた。 47 そしていつも言っていた。「私たちが死んで塵と骨になったとき、よみがえらされるというのか。 48 私たちの祖先もか」。 49 (ムハンマドよ、) 言いなさい。「そのとおり、大昔の者も後世の者も、 50 必ずことごとく集められるだろう、そうと知られたとおりのかの日に」。 51 それから、あなたがた、迷って (真理を) 嘘よばわりしていた者よ、 52 あなたがたはきっとザックームの木から (その実を) 食べ、 53 下腹が膨らんだところで、 54 その上から沸騰した水を飲む、 55 のどが渇いたらくだのように飲む。 56 裁きの日、彼らのもてなしはこのようなもの。 57 われらはあなたがたを創造した。それであなたがたは、どうして真実を認めないのか。 58 あなたがたは考えたことがあるのか、自分たちが漏らすもののことを。 59 それを創造したのはあなたがたか、それともわれらが創造者か。 60 われらはあなたがたのあいだに死を定めた。われらが出し抜かれることはない。 61 われらはあなたがたを同様のものと取りかえも、あなたがたの知らないものに造りかえもする。 62 あなたがたは最初の誕生を知っているはず。それでいてあなたがたは、どうしてて戒めを受け入れないのか。 63 あなたがたは考えたことがあるのか、自分たちが耕してきたもののことを。 64 それを育んだのはあなたがたか、それともわれらが育む者か。 65 もしわれらがそうと望めば、それを枯れ屑にすることもできた。あなたがたは、ただ驚くばかりだっただろう。 66 「何ということだ、負債を抱えることになってしまった。 67 いいや、私たちは奪われたのだ」。 68 あなたがたは考えたことがあるのか、自分たちが飲む水のことを。 69 それを雲から降らせるのはあなたがたか、それともわれらが降らせる者か。 70 もしわれらがそうと望めば、それを苦くすることもできた。それでいてあなたがたは、どうして感謝しないのか。 71 あなたがたは考えたことがあるのか、自分たちがおこす火のことを。 72 その (火をおこす) ための木を培うのはあなたがたか、それともわれらが培う者か。 73 われらはそれを戒めとして、また荒野をゆく者たちの便利のために供した。 74 それゆえあなたの大いなる主の御名を讃美しなさい。 75 いいや、われは誓おう。星々のありかにかけて。 76 本当に、それは大いなる誓い。もしあなたがたが、知ってさえいたなら。 77 本当にこれは高貴なクルアーン、 78 隠された書の中に (記されている)。 79 清らかにされた者の他は、誰もそれに触れることはできない。 80 諸世界の主からの啓示。 81 あなたがたは、その言伝を軽んじるのか。 82 これを嘘よばわりすることで、糧 (への感謝) にしようというのか。 83 それなら、どうして (魂が、臨終の間際に) 喉元にこみ上げてくるとき、 84 あなたがたは、ただ座して見ているだけ。 85 われらは、あなたがたよりもその (臨終の) 者の近くにある。しかしあなたがたには見えない。 86 あなたがたが、本当に (来世におけるわれらの) 報いを免れているのなら、 87 どうして (魂を) 連れ戻さないのか、もしあなたがたが、真実を語っているのなら。 88 もしその (臨終の) 者が、(主の) 側近くに召された者のひとりなら、 89 安息と賜りものと、至福の庭園がある。 90 もし右側の仲間であったなら、 91 右側の仲間から、「あなたの上に平安あれ」。 92 しかし、もし嘘よばわりしていた者、迷い去った者であったなら、 93 沸騰する水のもてなしを受け、 94 業火で焼かれるだろう。 95 本当に、これは絶対の真理。 96 それゆえ、あなたの大いなる主の御名を讃美しなさい。
出来事 アル=ワーキアの解説と解釈
☪︎ 出来事が起こるとき
現世では、人間は何をしようと自由だと考えている。だから、来世での報いのことなど、人の心には何の影響も与えない。しかし、『あの世』の存在は、現世の存在と同じようにあり得ることなのだ。その時が来れば、体制はすべて逆転する。地位の高い者は下降し、地位の低い者は上昇する。その時、人間は3つのグループに分けられる。先頭のグループ(as-sabiqun)、右のグループ(ashab al-yamin)、左のグループ(ashab ash-shimal)だ。そのうち二つは楽園に入り、残りの一つは地獄に入る。
☪︎ 右側の仲間。右側の仲間とは何か
「右側の仲間」とは、楽園の普通の人々を意味する。この中には、信心深く、敬虔な人々も含まれる。信仰に関して、彼らはそれほど高い意識を持ち合わせていたわけではない。しかし、神とその預言者に対して誠実であり、正義の道を歩み、生涯を通じて神を畏れた。この仲間の中には、それ以前の時代からの数多くの人々がおり、それ以後の時代からも相当数の人々がいる。
☪︎ 左側の仲間。左側の仲間とは何か
「左側の仲間」とは、容赦ない懲罰が下される者たちを意味する。現世での享楽に惑わされ、神以外のものを自分の関心の対象としてきた。来世のことをすっかり無視してしまい、まるで来世が現実のものとならないかのようであった。このような人々は審判の日に厳しい罰を受ける。
☪︎ 先頭にある者は、先頭をゆく
先頭(as-sabiqun)の集団は、自分の前に真理が現れた時、それを即座に受け入れ、躊躇することなく身を委ねる者たちである。預言者の妻アイーシャーによれば、預言者「審判の日に、誰が最初に神に守られた日陰を見つけるか、知っているか」と尋ねると、人々は、神と預言者が一番よく知っていると答えた。預言者は言った「真理が示され、それを受け入れた者たちだ。彼らは、真理が求められると、それを伝えた。他人に対しても自分と同じ様に判断したのだ」。真理が呼びかけられた初期には、自分からイスラームを受け入れた人々にとって、それは新たな発見だった。その後の世代は、イスラームは伝承のものと考えた。この発見と伝承の違いが、先頭のグループの地位を次のグループの地位よりも高めている。当然のことながら、二番目のグループは先頭のグループよりも数が多い。来世では、二番目のグループには通常の報酬が与えられるが、先頭のグループには高貴な報酬が与えられる。
☪︎ それを創造したのはあなたがたか、それともわれらが創造者か
母親の胎内から人間が誕生すること、大地から作物が育つこと、雨が降ること、燃料から火が得られること、これらはすべて神から直接もたらされたものである。それらは人間の努力の結果ではなく、神からの贈り物として扱われるべきだ。人間が神に感謝すべきなのは、神が自分に与えてくれたすべての恵みに対してである。
☪︎ 星々のありかにかけて
「mawaqi」は「mauqa’a」の複数形である。その意味は「降る場所」。ここでいう星のマワキとは、おそらく星の軌道のことだろう。この宇宙には無数の大きな星がある。それらは極めて正確にそれぞれの軌道を回っている。
☪︎ 本当にこれは高貴なクルアーン
宇宙で機能しているこの体系をよく考える人は、この宇宙の創造主が想像を絶するほど偉大であることを認めざるを得ないだろう。それならば、そのような創造主からもたらされる啓典(クルアーン)もまた、間違いなくそのような偉大な啓典である。
クルアーンは、天使たちを通して預言者に届いた。これほど完璧に保存されている古代の書物は他にない。このこと自体が、クルアーンの偉大さの証拠である。このような書物から導きを得られない者の不幸は計り知れない。
☪︎ 清らかにされた者の他は、誰もそれに触れることはできない
浄化を済ませた者でない限り、誰もクルアーンに触れることはできない。ここでいう「浄化」とは、一部の解釈者によれば手指などの洗浄を指す。他の解釈者に従うなら、イスラームに入信し、信仰者となり、さらに所定の浄めによって「浄化」する必要がある。いずれにせよ、清潔な者でなければクルアーンに触れることはできない。
☪︎ 喉元にこみ上げてくるとき
死の間際に、魂が人間の身体の喉元までせり上がってくる。神は、臨終を迎える本人よりもその者のことを熟知している。人間には、自分と生死と神との密接な関わりを、理解できたようでいて理解できていないことの方が多い。
死は、人間が神の力の前では完全に無力であるという事実を示す最後の出来事である。すべての人は基本的に決まった時に死ぬのであり、誰もその人を死の天使から救うことはできない。このことを考えると、人間は死後の自分の状態にもっと関心を持つべきだ。生前に楽園に入るにふさわしい行いをした者は、死後の人生で楽園に導かれる。しかし、この世で神を敬遠した者は、来世で神の恩寵を受けることができない。熱湯で迎えられ、業火が住処となる。
☪︎ それゆえあなたの大いなる主の御名を讃美しなさい
地獄の業火の中に入れられた罪人の告白から一転して、様々な象徴的な言葉を通して神の全能について語られる。現世では精液の一滴から人間を創造するように、来世では無から人間を再び創造することもできる。神はまた、空から雨を降らせて植物を育て上げることもできる。
これらの事を深く考える者には、数え切れないほどの教訓がある。そこには、現世の後に第二の人生があることの証がある。同様に、これらには、物事を与えた方がそれを取り去ることもできるという確かな示しがある。
さらに、水の例もある。水の蓄えは、そのほとんどが塩水を含む海の形で存在する。水の約98パーセントは海にあり、体積の10分の1は塩でできている。水蒸気が海から上昇するとき、純粋な水が上昇し、塩分が下に残るのは神の法則の奇跡である。実は、雨のシステムは巨大で普遍的な淡水化作用をもっている。この自然の仕組みがなかったら、世界中の水はすべて海水と同じように汽水になっていただろう。
そして山の頂に積もった雪も、川を流れる水も、すべて塩分が濃くなっていただろう。地球上に膨大な水があるにもかかわらず、淡水が確保できないことは人類にとって計り知れない大問題だった。もし人々がこのことを考えるなら、心は神への賛美で満たされることだろう。
THE INEVITABLE (al-Waqi’ah)【英語訳】
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