アッ=タラーク(アラビア語: الطلاق, aṭ-talāq)は、コーランの第65章で、12節からなる。アブドゥッラー・イブン・マスードは、この章を『アン・ニサーア章』の短縮版であると述べている。この章はまた、喪の期間を月経の 3 回の期間と定義している。 初潮前の少女と閉経後の女性は3ヶ月。妊娠中の場合は、出産後である。このスーラは、最初の 7 節で離婚と、その結果として生じる多くの家族問題を取り上げた後、人々に神の規則と導きを守るよう強く促し、背信者や不従順な者がその罪のために懲らしめられたという、以前の人々の運命を思い起こさせる。 第 11 節では、真の信者に求められる態度として、使徒への信心と恩恵に関することが述べられ、最後に神の力と知識が強調されている。
男女の関係は社会生活上の重要な要素である。本章では、そのいくつかの側面が扱われている。預言者は次のように語っている。「許可されているもののうち、離婚は、アッラーが最も憎むことである」。このように結婚の尊厳は、家族生活の不可欠な基盤として擁護されている。同時にその一方で、この尊厳を無分別に崇拝するあまり、いわばフェティシズムに陥って、人間が生きてゆく上で当然守られるべき根元的な価値を犠牲にしてはならない。
الطلاق【アラビア語】
離婚 アッ=タラーク 朗読音声
離婚 アッ=タラーク【日本語訳】
慈悲あまねく、慈悲深いアッラーの御名において。
1 預言者よ。あなたがた (ムスリム) が女と離婚するときは、待つべき期間が過ぎた後で離婚しなさい。待つべき期間を (正しく) 計算し、あなたがたの主たるアッラーを畏れなさい。明らかな不品行にはしったのでもない限り、彼女らをその家から追い出してはならず、また彼女らも出て行ってはならない。これがアッラーの定めた禁令。誰であれアッラーの禁令を越える者は、自分自身に不正をなす者。あなたは、知らなくとも、アッラーはその後になって新たなことをもたらすかもしれない。 2 (待つべき) 期間に達したときは、相応に遇してとどめおくか、あるいは良心をもって別れなさい。あなたがたの中から公正な者二名を証人に立てて、アッラーのために証言させなさい。これがアッラーと終末の日を信じる者に教示されていること。誰であれアッラーを畏れる者には、この御方は (解決の) 出口をあらしめ、 3 思いもよらないところから糧をもたらす。アッラーに委ねる者には、この御方だけで十分である。本当にアッラーは、必ず意図するところを成し遂げる。アッラーは、ありとあらゆるものごとに限りを定めている。 4 あなたがたの妻のうち、すでに月経のない齢を迎えた者でも、あなたがたに疑念があるなら、待つべき期間は三か月とする。いまだ月経のない者もまた (三か月とする)。身ごもっている者については、その期間は彼女らが重荷を産み落とすまで。誰であれアッラーを畏れる者には、この御方はものごとを安楽にする。 5 これがあなたがたに下されたアッラーの命令。誰であれアッラーを畏れる者には、この御方がその悪事を消し去り、また大いなる報酬があるだろう。 6 あなたがたの資力に応じて、彼女らをあなたがたの住まうところに住まわせなさい。彼女らを苦しめようとして、害を加えてはならない。彼女らが身ごもっているなら、重荷を産み落とすまでの費用を彼女らのために払いなさい。もし彼女らが、あなたがたのために (赤子に) 授乳をしてくれるようなら、彼女らに報酬を払いなさい。互いのあいだで道理にかなう話し合いをしなさい。しかし、もし互いに不同意となったなら、他の者に (赤子の) 授乳をさせなさい。 7 資力のある者は、その資力に応じて払いなさい。糧の乏しい者は、アッラーに与えられているものに応じて払いなさい。アッラーは誰に対しても、御自らが与えた以上のものを担わせることはない。アッラーは、苦境の後には安楽をもたらす。 8 主と使徒たちの命令に対して不遜であった町が、(多く) あっただろうか。われらは (彼らに) 厳重に清算し、恐るべき懲罰をもって罰した。 9 こうして彼ら (その町の住民) は、自分たちの行いの結果を味わった。その結末はまったくの損失であった。 10 アッラーは彼らのために厳重な懲罰を用意している。それゆえアッラーを畏れなさい、信じ、分別をもつ者たちよ。アッラーは、すでにあなたがたにひとつの戒めを下している、 11 あなたがたにアッラーの明白な御しるしを読み聞かせる、ひとりの使徒を。それは信じて正しい行いをする者を、暗闇から光へと連れ出そうとしてのこと。それゆえアッラーを信じ、正しい行いをする者を、かの御方は川がその下を流れる楽園へ入らせ、永遠にその中に住まわせるだろう。アッラーはその者のために、もっともすぐれた糧をもたらす。 12 アッラーこそは七つの諸天を、またそれと同じように大地を創造した御方。命令は、それらのあいだから下される。それにより、アッラーがありとあらゆるものごとにおいて全能であり、またアッラーが、ありとあらゆるものごとをその知で網羅することを、あなたがたに知らしめるため。
離婚 アッ=タラークの解説と解釈
☪︎ あなたがたが女と離婚するとき
イスラームでは、離婚は例外的に認められており、その手続きは決められた期間内に完了しなければならない。このように、離婚の手続きには一定の条件が課せられている。このような制限の意図は、最後の瞬間まで当事者に和解の機会を与え、離婚によって家庭や社会に、混乱を生じさせてはならないということである。離婚の過程において、神を敬う精神が全体に浸透していれば、離婚はイスラームによって承認される。
離婚は合法ではあるが、それはいと高き神の忌み嫌うことでもある。これは神が預言者ムハンマドに対して告げていることではあるが、信仰者たちもまた預言者と同様の責任を有する。離婚が避けられないとしても、待機の期間が終わるまで待たねばならず、また適切な取り決めがなされるまでは、追い出されたりすることがあってはならない。待機の期間中に一方の当事者が後悔し、相手が戻ってくることを希望する可能性もある。その場合、お互いに関係を修復することも起こり得るだろう。
☪︎ 良心をもって別れなさい
待機の期間が終わるまで、夫はその妻に対する尊敬と礼節を欠かすことなく、また名誉ある配偶者として待遇すること。いずれにしても、彼は二名の証人を用意しなくてはならない。
離婚はスンナに従って行う必要がある。女性が住居を出るのは待機の期間が終わりを迎えてからのことであり、彼女の住居でもある場所から追放されるという態をとってはならない。すべては、二人の証人の立ち会いの下に行われなくてはならない。
ありとあらゆるものごとに限りを定めて
シャリーアは離婚やその他の事柄に関して、人間にいくつかの規制を課している。これらの規制は、人間の自由な性質を制限するものである。しかし実際には、これらは神の恩恵である。規制により得られる利点は、人間が不必要で回避可能な多くの害から救われること。
さらに、この世のシステムは、あらゆる害が何らかの形で補われる仕組みになっている。しかし、そのような補償が受けられるのは、自然の域を超えない人に限られる。
☪︎ もし互いに不同意となったなら
生活の糧に困窮していたり、母乳の出が悪かったり、あるいは彼女の健康状態が思わしくないなど、母親がその子どもを育てるのに妨げとなる状況が生じている場合を指す。心理的な困難もまた、そのひとつに数えられる。
イスラームは、たとえ離婚のような困難な決断を迫られたときでも、他者に対して広い心で接し、心を開いて接することを求めている。自分の本性に反するような他人の行動を忍耐強く許容し、相手に対する義務を果たすべきである。
このように行動するとき、その人は相手に対してだけでなく、自分自身に対しても善をなすことになる。そうすることによって、自分の中に現実的な気質というものが生まれる。そしてその気質が、この世で成功を収めるための最も重要な要素であることは間違いない。
☪︎ 厳重に清算し、恐るべき懲罰を
この節で言及されている懲罰とは、おそらく次の通りのことを意味する。① 来世における懲罰とは、清算と懲戒の意味を有する。② 現世における懲罰とは、「民の生活の中に」もたらされる飢饉や、敵対者への敗北がもたらす飢餓、また天災か人災かに関わらず、神の意志の下に人類にもたらされる災害。
☪︎ アッラーを畏れなさい、信じ、分別をもつ者たちよ
この言葉は、敬虔(タクワー)の源泉は心であることを示している。英知と意識を働かせることによってのみ、人はイスラーム法においてタクワーと呼ばれる境地に達することができるのである。
☪︎ 信じて正しい行いをする者を、暗闇から光へと連れ出そうとして
ここでのこの発言は、家族に関する法律に関連している。その昔、迷信というものが世界中に蔓延していた。様々な迷信が男女の関係を不自然な状態に陥れていた。クルアーンはこれらの迷信を排除し、男女の関係を自然なものに戻した。にもかかわらず、世の中にはこのような改良の方法をとらない人々がいる。
☪︎ 七つの諸天を、またそれと同じように大地を創造した
魂の王国にも階梯があるように、この地上における生においても同様の階梯がが存在する。文字通りに解釈するなら、私たちの頭上にある天空にも何層もの層が重なっているのと同じく、地球の地殻もまた何層もの地層が重なって構築されていることを示唆するものとも理解できる。
☪︎ その知で網羅することを、あなたがたに知らしめるため
これは、神がまことに人間に求めているのは『知識』、すなわち神の存在に対する意識であることを示している。この宇宙の広大なシステムは、それを通して人間に創造主を認識させ、神の絶大な力を深く内面的に悟らせるために生まれた。
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DIVORCE (at-Talaq)【英語訳】
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