アッ=タハリーム (アラビア語: التحريم、「禁止、禁制」) はコーランの 66 番目のスーラまたは章であり、12 節から構成されている。 このスーラはムハンマドの妻に関する疑問を扱っている。章題は、最初の節の lima tuharrimu に由来する。これはタハリーム(禁止、禁忌)の事件が言及されたことを暗示している。預言者が自分の個人的な判断に基づいてある食べものを禁止したという出来事からこの名で呼ばれている。
التحريم【アラビア語】
禁止 アッ=タハリーム(タフリーム) 朗読音声
禁止 アッ=タハリーム(タフリーム) 【日本語訳】
慈悲あまねく、慈悲深いアッラーの御名において。
1 預言者よ。あなたの妻たちを喜ばせたいからといって、どうしてアッラーがあなたのために合法としたことを禁じようとするのか。アッラーはもっともよく赦し、もっとも慈悲深い。 2 すでにアッラーはあなたがた (ムスリム) のために、あなたがたの誓いを解くように命じた。アッラーはあなたがたの庇護者である。すべてを知る御方。もっとも賢明な御方。 3 預言者が、妻たちのひとりに、秘密にしておくようにと、ある出来事について打ち明けたときのこと。それを彼女が (別の者に) 伝えて表ざたにすると、アッラーはそのことを彼 (預言者) に教えた。そこで彼は、教わったことの一部を (彼女に) 示し、また一部を伏せた。彼がそのことを彼女に報せると、彼女は言った。「誰があなたにこのことを報せたのですか」。彼は言った。「これを私に報せたのは、すべてを知る御方、熟知する御方」。 4 もしあなたがた二人が、悔い改めてアッラーに立ち返るなら (赦しがあるだろう) 。あなたがたの心は、確かに (禁じられた方へ) 傾いていた。しかし、もしあなたがたが彼に対して手を貸し合うなら、本当にアッラーこそは彼の庇護者。またジブリールも、信仰者の中の正しい人も、これに加えて天使たちも彼に手を貸すことだろう。 5 もし彼があなたがたと離婚しても、おそらく彼の主は、より良い妻たちをあなたがたの代わりとすることもできる。(主に) 服従する者、信仰ある者、よく悔い改めて立ち返る者、仕える者、既婚の者でも、未婚の者でも。 6 信じる者たちよ。あなたがたは自分自身と身内の者たちを、人間と石とを燃料とする業火から守りなさい。その (業火の) 上には、熾烈で厳重な天使たちが (見張り役として) ついている。彼らはアッラーに命じられれば逆らわず、命じられたとおりのことを行う。 7 「(真理を) 拒む者たちよ。この日になって言い訳はするな。あなたがたは、ただあなたがたの行ってきたことに報いられるだけ」。 8 信じる者たちよ。あなたがたは心底から悔い改めてアッラーへ立ち返りなさい。そうすればあなたがたの主が、あなたがたからその悪事を消し去って、川がその下を流れる楽園へと入らせてくれることもあるだろう。その日アッラーは、預言者と、また彼と共に信じた者たちを辱めはしないだろう。彼らの光はその前の方に、また右の方に進むだろう。そして彼らは言うだろう。「主よ、私たちのために、私たちの光をまっとうしてください。そして私たちを赦してください。本当にあなたは、ありとあらゆるものごとにおいて全能です」。 9 預言者よ。(真理を) 拒む者や、偽善者に対しては励みなさい。彼らに対しては厳しい態度をとりなさい。彼らの住まいは地獄である。行き着く先の、何と悪いことか。 10 アッラーは、(真理を) 拒む者たちのための例えを示す。それはヌーフの妻とルートの妻のこと。彼女らはわれらのしもべのうち、正しい二人の下にいた。しかし彼女らは二人とも彼らを欺いた。彼らにはアッラーに対して彼女らのためにしてやれることは何もなかった。そして「入る者たちと共に業火に入れ」と告げられた。 11 アッラーは、信じる者たちのための例えを示す。それはフィルアウンの妻のこと。(思い出しなさい、) 彼女がこう言ったときのこと。「主よ、あなたの御許、楽園の中に、私のための家を建ててください。フィルアウンとその行いから、私を救い出してください。不正をなす民から、私を救い出してください」。 12 また、イムラーンの娘マルヤムのこと。彼女は自分の貞節をよく保った。われらはその (胎内の) 中に、われらの息吹を吹き込んだ。彼女は自分の主の御言葉と啓典を真実とする、従順な者のひとりであった。
禁止 アッ=タハリーム(タフリーム) の解説と解釈
☪︎ あなたがたの誓いを解くように命じた
この節が啓示されたのは、預言者ムハンマドが、妻の一人ザイナブの住居で過ごした際に起きた出来事に端を発している。他の妻たちのうちアーイシャとハフサは、預言者がザイナブのところで過ごしたことに嫉妬して、戻ってきた預言者に、彼の息はひどい悪臭がする、と口々に言った。これを聞いて預言者は、これからは二度とザイナブの用意した蜂蜜で作った飲み物は口にしないと誓った。
ここでは預言者が、そのような誓いを撤回するよう神に命じられている。妻たちを喜ばせようとするのは決して悪いことではない。しかし、神が合法としたものを禁じるのは良いことではない。別の解説者によると、預言者ムハンマドが妻の一人ハフサのための日を、別の妻のマリアと過ごしたことをハフサが怒り、そのためムハンマドが二度とマリアに近づかない、と誓った際に啓示されたともいわれる。
☪︎ ある出来事について打ち明けたときのこと
預言者は、妻の一人ハフサに、自分の死後の後継者について遺言を託しており、その順序はまずアブー・バクル、次にウマルであった。内密にしておくべきこの秘事を、ハフサはアーイシャに打ち明けてしまった。そのことを、預言者は神の啓示を通して知らされることとなった。
☪︎ もしあなたがたが彼に対して手を貸し合うなら
預言者ムハンマドの妻たちの中には、複雑な状況を招いた者もいた。その警告として、最通告のような形で、ここで言及されている。これは、人生における女性の重要性を示している。妻が本当の意味で夫に協力すれば、夫の「最良の片腕」になるし、本当の意味での同志であることを示さなければ、人生の目的を持った男性のライフワークを台無しにしてしまうかもしれない。
☪︎ 自身と身内の者たちを、人間と石とを燃料とする業火から守りなさい
現世では、妻子への過度な執着によって、わかっていながらも、正しい道を避け、妻子が望むことだけを行うということがよくある。しかし、これはひどい過ちである。人間は、今日、自分が正しさをもって行動することを忘れた子供たちが、明日には、冷酷で、いかなる容赦もない地獄の凶暴な手先に引き渡されることを知るべきである。
☪︎ 悔い改めてアッラーへ立ち返りなさい
現世における人間は、常に試練にさらされているため、過ちを犯しやすい。その償いのために、悔い改め、神に向き合わなければならない。本質的に、悔い改めは恥ずべき感覚から生まれる。自分の過ちに気づけば、恥ずかしいと思うようになり、その羞恥心が今後そのような行為にふけらないようにさせるのである。『恥じることが悔い改めである』というハディースがあるのはそのためだ。預言者ムハンマドの仲間は『真の悔い改めとは、人が神に立ち返り、その行為を繰り返さないことである』と言った。
悔い改めは行動によって証明されなければならない。それは単に言葉を繰り返すことではない。アリー・イブン・アビー・ターリブは、ある人が過ちを犯した後、ただ『タウバ、タウバ』と繰り返しているのを見て、これは嘘つきの悔い改めだ、と言った。真のタウバは来世の光であり、偽りのタウバは来世の闇である。
☪︎ 彼女らは二人とも彼らを欺いた
ヌーフの妻は常々、自分の夫は狂人であると人々に吹聴していた。ヌーフの妻もルートの妻も、神を信じることもなければ、自分の夫の預言者性を認めることもなかった。そして二人とも、信仰を否定した者として死んでいったのである。
神の目には、その人が行う行為だけが意味を持つ。たとえ聖人とつながりがあっても、敬虔な人々と親戚であっても、何の役にも立たない。ヌーフとルートは神の預言者であったが、彼らの妻はなおも真理の敵と強い関係を結んでいた。その結果、預言者の妻であるにもかかわらず、彼女たちは地獄に送られることになった。
☪︎ それはフィルアウンの妻のこと
フィルアウンの妻アースィヤは信仰ある女性だった。フィルアウンがアースィヤの手足を縛り、胸の上に重石を乗せ、太陽の日差しの下に置き去りにしたとき、彼女は自分の主たる神に、祈りを捧げた。
フィルアウンは不信心な暴君だった。しかし彼の妻アースィヤ(ムザヒムの娘)は信仰深く、敬虔な行いをする女性であった。そのため、彼女が正しい道を歩んでいれば、夫の間違った行動も、彼女には悪影響を及ぼさなかった。夫は地獄に送られ、妻は楽園の庭に自分の居場所を見つけた。
☪︎ イムラーンの娘マルヤムのこと
イーサー(イエス・キリスト)の母マルヤム(マリア)の父の名はイムラーンであったとされている。人々は不品行を働いたとしてマルヤムを責めたが、彼女は最も純粋かつ高潔な女性の一人だった。
幼少期から青年期まで、マルヤムは自らを清く保ち、貞潔を守った。それゆえ、神は彼女を処女ながら奇跡的に預言者を出産させるために選ばれたのである。ある伝承によれば、天使ガブリエルがマルヤムのシャツの前を吹き、マルヤムは妊娠し、メシア(キリスト)が誕生したという。
PROHIBITION (at-Tahrim)【英語訳】
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